

★★★
ぼくのアビー
オリジナルの『ぼくのエリ 200歳の少女』に忠実に作られたリメイク作品。
ハリウッド映画でここまで静かな映画を作ることが出来たのは凄いが、結果としてオリジナルの良さを際立たせることになった。
オリジナルとの相違点としては、『トムとジェリー』での人間の扱い方のように、少年の母親の姿をハッキリと見せず声だけの存在にしている点が挙げられる。
父親に至っては、電話口の声のみだ。
子どもだけの世界を強調したかったのだと思うが、大人の存在があってこそ、この世界からの逃避行が活きてくると思うのだ。
本作での演出は逆効果ではなかろうか。
オリジナルでぼかしてあった少女と保護者の関係を、スピード写真のツーショットで説明してしまうのも野暮だなぁ。
これは、外国の映画を観たがらないアメリカ人の為に作られた映画と捉えるべきだろう。
僕らには『ぼくのエリ』がある。
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★★★★★
人間のエゴとロマンチシズム
今度はいつ自分が襲われるかわからない状況にありつつも、ここでの生活があるから仕事があるからと街を離れられず、ガスマスクを常備してモンスター出現予報を気にしながらの共存を余儀なくされる人々。
この状況がまさに原発事故後の我々の生活とダブることにまず驚く。
それだけリアルだということだ。
この映画のスゴい所は、モンスターそのものではなく、人々の生活や背景を緻密に丹念に積み上げていくことで世界観を構築していく、低予算を逆手に取ったその演出スタイル。
そして、例えば、“いい写真”を撮るために子どもにガスマスクを被ることを要求するジャーナリスト。
米軍の爆撃による二次被害に怒りの声をあげる地元民達。
これら、内政干渉やテロ報復戦争などの現場で、現実に起こり得る描写を盛り込むことで、リアリティのある世界を造り上げている。
同時にそれらに対する批判もチクリと加える。
さらに、モンスターの生態が明らかになるに連れ、炙り出される人間のエゴ。
この生物達は街を襲っていたのではなく繁殖の為に上陸していた。
お互いに愛し合う姿は人間や他の地球上の生物となんら変わらない。
ラスト、これまで人間がモンスターの愛を引き裂いていたように人間達の愛もまた引き裂かれ得る、そう暗示しつつ、大きな余韻を残して映画は終わる。
『28日後…』がその後のゾンビ映画に影響を与えたように、本作もまた今後のモンスター映画の流れに影響を与えるだろう。
それ程にエポックメイキングな作品である。



★★★
マチェーテ、ダイ・ハードごっこする。
『グラインドハウス』のフェイク予告編をホントに映画化してしまうシリーズ(?)第一弾。
予告編のシーンをキチンと、いや無理矢理ストーリーに組み込んで再現するのがまずウケる。
そして、シチュエーション重視のアクションに燃える!
内容は完全なメキシカン士気高揚映画だが、マイノリティー決起集会に大概の人は熱くなれるだろう。
主演のダニー・トレホが一番格下に思える程の豪華共演陣も見ものだ。
体型がごんぶとになってしまったスティーブン・セガール、すっかりおじいちゃんになったドン・ジョンソンなど、マニアを唸らすキャスティング。
女優勢では、チェ・ゲバラの「CHE」をもじった「SHE」として登場するミシェル・ロドリゲスが、やはり別格だ。
リンジー・ローハンがスッポンポンになろうが、ジェシカ・アルバがCGで下着を消そうが、アイパッチでビキニでローライズパンツのミシェルには敵わない。
そして、出演者の中で最も遊んでてオイシイのはデ・ニーロ。
『タクシードライバー』のパロディで狙撃される政治家を演じ、あげくタクシーを奪って運転し、ノリノリで銃撃戦に参加し、この作品の象徴のような最後を遂げる。
悪ノリにも程がある(誉め言葉)。
しかし、これだけ贅沢な配役をしておきながら、撮りたいシーンだけ撮って後は放ったらかし、または適当な結末、というキャラが多過ぎないか。
この作品に限らず、ロドリゲスの映画は登場人物が多過ぎる。
キチンと捌くことができず、もて余しているのが問題だ。
それに付随してシーンも多くなり、ごちゃごちゃとして散漫だ。
それを「グラインドハウス的」とか「B級テイスト」といった言葉で片付けてしまうのは間違っている。
結局、一番興奮したのは、冒頭のアクション→アソコから携帯→炎に浮かび上がるトラブルメイカーロゴ→オープニング、の流れだった。



★★★★
『ブラザーズ』でいいんじゃない?
主人公を軸に、兄弟関係、夫婦関係、父親との親子関係、子供との関係と、様々な「繋がり」が濃密に描かれる。
テロリストによる壮絶な監禁・虐待に耐え抜いた主人公だが、PTSDが原因で家族とまともに接することが出来なくなる。
愛する家族のことだけを想い続けて生き延びてきただけに皮肉である。
主人公だけでなく、彼を取り巻く全ての登場人物の心情が理解できるので、人間関係の悪化に苦しむ主人公の姿がもの凄く痛々しい。
子供から「お父さんのことは嫌い、叔父さんの方がいい」と言われる場面など辛すぎる。
子供の気持ちもわかるだけに余計に辛い。
また、周りの人々は、主人公は死んでしまったものとして新たな関係を築き始めている。
そこに主人公が帰って来たからといって、簡単には以前の状態に戻ることはできない。
例えそれが愛する人だとしても。
新たな生活に踏み出した者達にとって、時間を巻き戻すのは難しいことだ。
たった一人、時が止まってしまった主人公が、もがけばもがくほど、周りの人達とは別の時間軸に流されてしまう。
役者の演技の素晴らしさは特筆もの。
音楽ものっけから良い。
希望を感じさせる幕切れも良い。



★★★★★
飛びます、飛びます
一年のほとんどを出張に追われ、マイレージを貯めることを生き甲斐とし、女性とは上辺だけの付き合いしかせず、家庭を持たず、飛行機こそがマイホームだと言い切る、敏腕リストラ通告人のライアン。
そんな彼の心に様々な人との出会いが少しずつ変化を与えていく。
彼氏を追って引っ越したのにフラれてしまった新人女子社員。
ライアンの妹との結婚に直前になって怖じ気付く新郎。
家庭がありながらライアンと不倫をしていた女性。
色々な人達の家族観、恋愛観に触れ、自分の生き方を見つめ直す。
例えば、妹が結婚式の為に「フランス映画みたいに」全米各地を旅する自分達の立て看板写真を集めるエピソード。
想像していたよりも膨大に集まった写真を前に、複雑な面持ちのライアン。自分が地道に貯めているマイレージの無意味さを感じていたのかもしれない。
そこから、新婚旅行に行くお金がない妹夫婦にマイレージをプレゼントする場面に繋がる、幾重にも折り重なるようなエピソードの構成が見事。
ラスト。
ライアンは仕事を替えることなく続けていく。
リストラを言い渡す仕事に嫌気が差して転職するような、安易な結末にはならない。
しかし決して、仕事は仕事と割り切っているのではない。
それでも彼の中では確実に何かが変わっている。
前よりも確固たる信念を抱いてこの仕事に取り組むだろうことを予感させる、ライアンの表情がいい。
航空映像を音楽に合わせてリズミカルに繋いだオープニングも心地良い。
